賃金が上がらない理由

アベノミクスがそれなりの効果を出してきて、企業業績はまずまず上向いてきてるらしい。


で、第2四半期の決算報告がでてくる昨今、よく話題にあがるのが「従業員の賃上げが本当に行われるのか?」ってこと。


これを見ていると、安倍政権がいかに選挙での票というか保身しか考えてないのがよくわかる。国をよくするにはどうするか?という視点じゃなく自民党に票をいれてよかったと思ってもらう視点しかないから、こんなしょーもない話題が閣僚から出てきて、それがメディアにあがるわけだ。これじゃ民主党子供手当てを笑えない。


正直言って、昭和の頃のように全従業員が一律ベースアップってのは、あまり期待できないと思う。


これについてダラダラと書いてみる。


なぜ一律のベースアップは期待できないのか?


端的にいえば、今の日本企業の賃金を決定する基本コンセプトが昔とは変わってしまったからだ。


世の中にはいろいろな経営者がいるとは思うが、会社内の限られた資金をどう配分するかという命題に対して、経営者が熟慮する要素は多分どの会社でも変わらないと思う。

違うのは、それぞれの要素に資金の配分する率を決定する考え方だけだ。


大雑把にいえば、基本的な要素はこんなところ。

1.事業を拡大するための投資資金の確保
2.将来不景気になったときに会社をつぶさないための留保
3.株主に対する配当と役員報酬のバランス
4.従業員のやる気を出させるためのボーナス
5.従業員の固定人件費(基本給)


経営者の考えるであろうプライオリティ順に並べた。若干の違いはあるかもしれないけれど、会社の経営陣は大体こんな感じの順序で資金の配分を決めていると思う。


どんな経営者でもそうだと思うが、まずは会社を存続させることが重要だと考えていると思う。そのために見ている景色は、必ず現在より先の未来だ。未来の予測なしに経営は行えない。


現在の事業の予測が前向きな場合は、事業を拡大した上で安定させることで、より強い健全な会社を維持し存続させようと考える。これが1に相当する。


後ろ向きな予測の場合は、事業を立て直したり新規事業にシフトしたりするための時間と資金の確保が必要だ。これが2に相当する。


どういう形にせよ、未来にも会社が存続していると予測できる場合、次は経営陣は自分のクビのことを考える。株主は経営陣を株主総会で解雇することができる。だからどうしたって株主は大事にせざるを得ない。


会社の株式の過半数を社長自らもっているような会社は、株主のことを考えなくてもよいかもしれないが、大概の企業の場合、株主を無視するのはなかなか難しいのではないかと思う。


経営陣が会社の資金の配分を考える上で、これらの配分を行った後の残りで4、5を考えることになる。

4の優先度が高いのは、毎月の給与をベースアップするより、ボーナスとして一時金を支給するほうが将来の会社のキャッシュフローに対するインパクトが少ないからだ。


端的にいって、業績が悪いからボーナス0にするというのは簡単だが、固定給を減給するのは日本の法律ではいろいろ制限をかけられていて難しい。


だから固定費UPは会社の将来にとってかなりの枷になる。将来、どんなに会社の業績が悪くなっても、給与を簡単に引き下げることはできないし、正社員の場合、簡単にクビにすることもできない。


ベースアップを行うということは将来の予測に相当の自信がなければ難しいといえる。


果たして、今の日本の企業経営者の中で、そんな自信があって10年後も20年後も大丈夫なんて思っている経営者がいるだろうか?

今の経営者はバブルが弾けてどん底のような不景気を肌で感じた世代が多い。巨大企業だってつぶれるときはあっけないことを知っている。

苦しくなったときのために留保を溜め込むのも道理だ。


だから、一律のベースアップは相当に厳しい決断だと思う。あるとすれば、アベノミクスの効果でインフレが進んだ場合の物価上昇の率から会社の安全マージンを差し引いた程度のベースアップしか期待できない。


ちょっと油断すると、民主党政権のような政権が円高を誘導して、キャッシュの価値を大きく変化させてしまう。会社はそれにあわせるために四苦八苦だけど、従業員の固定給だけは決まった額を払うことが法律で義務付けられている。


そういう現状がある中で、従業員に対して払う固定給はどう決定されるのか?

端的にいえば、使える奴には高給で、使えない奴にはそれなりの給与で、という従業員の選別が厳しく行われる。

そこには「同一労働同一賃金の原則」というのが強く働く。もはや年功序列は崩壊した。総務の仕事を去年と変わらず同じ質でやってるなら、会社の業績が上向いても同じ賃金というのが、昨今の流れだ。


どんな労働にも相場というものがある。企業が仕事をアウトソーシングしたり派遣を活用したりできる今時は、労働市場の相場というものにどこの会社もとても敏感だ。

誰だって相場より高い金額は払いたくない。逆に、それがかなりの高額だったとしても相場なりの金額で会社にとって必要な業務であれば、企業も高額な対価を払うしかない。


終身雇用がなくなった今、派遣を含めて、労働者は会社を移籍することに大した抵抗はない。有能な従業員にいなくなられたら、最悪、会社は傾いてしまう。だから、有能な従業員にはそれなりの対価を支払う。将来にわたっての活躍が期待される人材なら、その人にだけ大幅なベースアップもありうることになる。


だから、どうしても賃金をあげたいのであれば、労働市場の中でより高い付加価値をもつ労働者になるしかない。


こういう状況がある中で、アベノミクスが去年の秋にスタートして、企業の労働生産性は向上したのだろうか?


労働市場をめぐる今の流れはどうにもとめようがないと思う。日本国内だけで完結している労働市場ではなくなった。単純労働はどうしたって海外の人件費が安い国に出される流れだ。中国のようにカントリーリスクがあったりするが、中国以外にも安い労働力を売る国はいくらでもあるから、どうしようもない。

そして、本当に日本国内でしかできない付加価値のある仕事は、たとえ中国や東南アジアにいったとしても、結局戻ってくる。


本当に厳しい時代になったものだ。


なのに、政府は昔のままの労働行政を敷いている。もはや昔のままの労働行政でどうにかできる状況ではないのに。


安倍政権が、経団連や大手企業に賃上げのお願いをしているが、やっていることがオカシイ。国がそんなお願いをしたところで、企業が言うことを聞く理由がない。そしてそれは政府の仕事ではない。

明らかに票目的の本当にレベルが低い保身の行動だ。アベノミクスが期待はずれだった場合の反動が怖いから、あんなしょーもない保身をしている。

もっとやるべきことはあるだろう!と本当に思う。


賃上げのお願いよりも、まずは公正で平等な労働環境と労働市場を作ることを努力したほうがいい。


具体的には労働基準監督署の業務強化と増員、それから労働基準法に違反した企業への罰則の強化。とにかくサービス残業をなくして、働いた分の賃金は必ず得られることを保証すること。

それから労働契約の内容を明文化し、業務内容とそれに対する対価を必ず契約内に盛り込むことを義務付ける。


きちんと働いて、その分の相場なりの対価は必ずもらえるとわかれば、その人なりに努力のしがいも出てくるのではないかと思う。


サービス残業ですべて飲み込まれるのが分かっているのに、労働生産性をあげろといわれても、労働者が努力できるわけがない。生産性があがってないのに、政府が賃上げをお願いしたところで出来るわけがない。

こういう動きが票になると分かれば政府も行動を起こすのだろうと思う。


つまり、イデオロギーとか中華とか朝鮮とかに汚染されていない、まともな労働組合的組織を労働者が作って、既存の御用組合労働貴族を一掃すれば、状況はかなりよくなるのではないだろうか?


結局、大衆のレベルが政治家のレベルを決めてるってことなんだろうか?


でも日本の大衆はアメリカや世界の国の大衆より識字率も高いし教養もある。世界中でまともな労働市場や環境を作れるとしたら、それは日本なのではないか?と思うのだけど。


と、こんなことをつらつら考えた。